それからずっと、川上先生とちゃんと話すこともなくて。

冬休み中の、生物の課外にも、親が行かせてくれなくて。


センター試験の前日の日。

それが、川上先生の最後の授業だった。



前から噂に聞いていたけど、川上先生は歌が上手いらしい。

上手い?

というか、歌うのが好きらしい。



で。



最後の授業の日、先生は何やら変な服装でやってきた。

白衣の下に着ているものは、一体―――



そして、先生はわざわざマイクまで持ち出して。

私たちのために歌ってくれたんだ。

みんな、笑ってたけど。

私は泣きそうになった。


先生が歌ったのは、「乾杯」長〇剛の名曲だ。

よく、お父さんが結婚式で歌う曲らしい……。


著作権、どうかな。

歌詞、少し載せてもいいかな。


大きな喜びと 少しのさみしさを
涙の言葉で歌いたい
明日の光を 身体にあびて
ふり返らずに そのまま行けばよい
風に吹かれても 雨に打たれても
信じた愛に 背を向けるな

乾杯!今君は人生の
大きな 大きな 舞台に立ち
遥か長い道のりを 歩き始めた
君に幸せあれ!


まあ、こんな感じなんだけど。

こんな歌を歌われて、泣くなと言われる方が間違ってる。

というか、川上先生かっこよすぎる。


川上先生のことを好きじゃないあっきーまで、ちょっと涙ぐんでたから。

川上先生の気持ち、みんなに伝わったよ―――



途中で白衣を脱いで、中に着ていた衣装になった先生。

スパンコールのついたベストなんだけど……。

首に真っ赤なリボンもついてて。


いつもの真面目な川上先生からは、想像もつかないような感じだった。


泣きながら、思わず笑っちゃったよ、先生。

ずっと笑えなかったのに。

先生のおかげで、笑顔、取り戻した―――



「明日頑張ってこい!!」



しっかり一曲を歌い上げた先生は、にっこりと笑ってそう言った。


きっと。

先生も、同じだったんだね。

この3年間、つらいこともたくさんあったと思うけど。

こうして、みんなの前で歌えるまでになった。


それは、並大抵のことではないって、今なら分かる。

私のつらさなんて、比べ物にならないくらい。

先生はつらかったんだって。


だから、そんな先生の姿を見て、私も立ち止まってはいられないと、そう思ったんだよ―――