夢を、失くした。

先生を、失くした。


私はもう、生きている意味もないって思った。


だけど、センター試験の一か月前だったから。

立ち止まることは許されなくて。

それは、私にとって逆に、よかったのかもしれないけれど。


それなら最初から、希望なんて持たせてくれなければよかったのに。

オープンキャンパスなんて、行かなければよかった。

この目で、見るんじゃなかった。


川上先生と同じ大学なんて、目指すんじゃなかった。

先生の昔話なんて、聞くんじゃなかった。


だけど、先生と出会わなければよかった、何て。

それだけは、思えないよ、私―――



次の日は、テストだからどうしても学校に行かなきゃならなかった。

もう少しなのに、もう三カ年皆勤とかどうでもよかった。

それなのに。



学校に行くと、みんなが心配してくれた。

あまりにも、死にそうな顔をしていたからかもしれない。



「どうしたの、晴子!」


「あっきー、……私ね、」



涙が、零れ落ちた。

昨日の夜は一睡もできなくて、布団の中でずっと泣いていたのに。

どうして、涙って枯れないんだろう。



「S大行けなくなっちゃった……。」


「なんで??」


「ダメだって。お母さんが。」


「え??そんなのおかしいよ!!」



友達がみんな、おかしい、って言ってくれたけど。

でも、誰にもどうすることもできなかった。

私たちは、高校生で。

非力な高校生だから。


どうすることも、できなかったんだ。



その日に限って、テスト監督が川上先生だった。

私は、うつむいて、ずっと先生から目を逸らしていた。

テスト中、どうしても涙が滲んできて。

私は、声を出さずに泣いた。



親に、言われるまでもなかった。

川上先生に、顔向けできるはずがない。


今までずっと、相談してきて。

たくさん、たくさん応援してくれて。

昔話も、聞かせてくれて。


そんな川上先生に、S大を目指すことさえできなくなったなんて、言えるはずもなかった―――



川上先生と、一度だけ目が合った。

先生は、ものすごく心配そうに私を見ていたね。


心の中で、ごめんなさいって、何度も何度も謝った。



「後輩ができるかな。」



先生のその言葉。

あの頃は、何よりも嬉しかったその言葉が。


今思い出すと、刃のように私の心に突き刺さる。


先生の後輩に、なりたかった。

本当に、本当に。



テストが終わると、私は逃げるように教室を去った。

どうしても、耐えられなくて。

川上先生に、話しかけるすきも与えずに、私は逃げたんだ―――