*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

朝日宮と明子が自分たちに用意された席に着くと、侍女たちが食事や酒を運んで来た。




元服前の朝日宮は母と共に御簾の中に入り、円座(わろうだ)に腰を落ち着ける。






「…………ふぅ。


なんだか、ここに辿り着くまでにすっかり気疲れしちゃったわね」






気の抜けたような母の呟きに、朝日宮は思わずくすりと笑う。






「まったく同意いたします。


………それにしても、僕はお母さまを尊敬いたしますよ」





「あら、どうしてかしら」





「お母さまは、誰に何を言われようとも、なにも言い返さずに黙っておられるからです。


僕はどうしても、なにか口答えをしてしまいたくなってしまうのに。



お母さまのように胸の内に全ての思いを閉じ込めておしまいになれるのは、お母さまが本当に強いお心をお持ちだからだと、僕は思います」






愛しい息子から真っ直ぐな言葉をかけられて、明子は苦笑を洩らした。