*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

章子と奥津宮の一行が去った後、明子は菊音の御簾の前で足を止めた。





そして、扇の奥から優しく囁きかける。







「栗壺さま………。


あまりお気になさらぬようになさいまし。



何を言われようと、お聞き流しになれば良いのです。


あなたはれっきとした妃のお一人ですし、今宵の宴には招かれてお越しになっていらっしゃるのですから」






「はい………ありがとうございます、綾景殿の女御さま」







朝日宮も、御簾の前に小さくなって座っている軽部宮と軽戸宮に話しかけた。






「軽部お兄さま、軽戸お兄さま。


ご無沙汰しております」






「あぁ、朝日宮。


こちらこそ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」






「お元気でいらっしゃいましたか」






「えぇ、相変わらずですよ」






二人の皇子は控え目な笑みで応えた。




容姿にせよ才にせよ、それほどに劣ったところもないというのに、幼い頃から『婢の生んだ皇子』と蔑まれて、どこか自信なさげな、自分を卑下するような雰囲気を醸し出す二人であった。





この二人の兄皇子を見るたびに、朝日宮は後宮というところの恐ろしさを痛感するのだった。