*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「あら、栗壺さまじゃないの。


あなたもいらしていたのね」







章子はどこか威丈高な声をかけた。







「………瑞雲殿の女御さま。


お久しゅうございます」







御簾の中から、消え入りそうな声で菊音が答える。




いかにも弱々しく泣き出しそうな声であったが、章子はそれだけでは満足しなかった。







「あなたのような方が、よくもこんな所に顔をお出しになれたわねぇ。


たった二度だけ、上さまのお気まぐれでお手がついただけだと言うのに。


なんと身の程知らずなのかしら。



それにしても、そのたった二度のお夜伽で、お二人も皇子をお生みになられただなんてね。


賤しい婢(はしため)は獣のように良く子を身籠るというけれど、本当ねぇ。



あぁ、浅ましいったらないわね。


このあたりはなんだか獣の臭いがするような気がするわ」







一気にまくし立てると、章子は満足気に笑って通り過ぎていった。






気性の激しい章子は、自分よりもずっと身分の低い菊音が、二人も皇子を生んだということが我慢ならないのである。




それで、自分が格上の家の出であることを良いことに、言いたい放題に罵倒するのが常であった。