*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

部屋に入ると、母の明子はすでに着替えを済ませていた。






「遅かったわね。


さぁ、あなたも急いで晴れの装いに着替えないと」





「すみません、急がないといけませんね」






そう答えてから、朝日宮は明子の正装姿をじっと見つめる。





袿(うちき)の襲色目(かさねいろめ)は白の下に紅梅色の、鮮やかな雪の下(ゆきのした)。



その上に赤みの強い蘇芳の打衣(うちぎぬ)、赤地に花菱文様の唐衣(からぎぬ)、そして艶やかな綾の裳(も)。






「お母さま、おきれいです」






朝日宮が思わず口に出すと、明子は照れくさそうに笑った。






「雪の下なんて若すぎると思ったんだけど………女房たちに言いくるめられてしまったの」





「若すぎるなんてことありません。


お母さまはまだまだお若く、お美しいですから」





そんなやりとりをしながら、朝日宮は女房が持ってきた童水干(わらわすいかん)に着替えた。



襲色目は、黄に淡青の枯野襲にした。






「お待たせいたしました、お母さま」




「では、行きましょう」