*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

第四の妃が、栄耀殿の女御と呼ばれた康子であった。



太政大臣の娘という時の最高権力者に連なる血筋と家柄、深い教養、誰もが目を奪われる気品、そして控えめで心優しい人柄。



康子はどこをとっても素晴らしい女性で、帝はすぐに夢中になった。




しかも、康子の生んだ五の皇子・沙霧宮は、たいそう優れた皇子だった。



たおやかな母の面差しに良く似た、玉のように美しい容姿、優美な物腰。




幼い頃から才気煥発で、物覚えも格段に良かった。


十になる頃には内外の名籍を読破し、古えから伝わる歌集や唐渡りの詩集も暗誦するまでになっていた。




さらには、気性も真面目で誠実、温厚、そればかりか風流も解する豊かな感性まで併せ持っている。




とにかく、家柄、人柄、気品、教養、人望、全てにおいて申し分のない、紛う方なき皇太子の器であるというのが専らの噂であった。




しかし、沙霧宮の齢十二の時に、出産直後から長く病に臥せりがちだった康子が天に召されてしまった。






それ以降は、沙霧宮は後宮における拠り所を無くし、どこか心許なげに暮らしていた。