*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

帝にお仕えする多くの妃たち、そして彼女たちの生んだ皇子(みこ)や皇女(ひめみこ)たちが暮らす後宮を巡って、朝廷では様々な陰謀が渦巻いていた。




伺候する貴族たちの間で目下のところ取り沙汰されているのは、日嗣の御子(ひつぎのみこ)がどの皇子に定まるのか、という問題であった。





帝の御子を生んだ妃は、七人いた。




第一の妻で正室であるのは、中宮(ちゅうぐう)の遼子(りょうし)である。




先帝の弟宮の皇女(ひめみこ)であり、帝の従妹にあたる内親王である。





中宮遼子は初めに皇女・嘉穂宮(よしほのみや)を生み、後に二人の皇子を生んだ。



一の皇子と三の皇子である。





しかし、一の皇子・初穂宮(はつほのみや)は生後すぐに病を得て、満三歳にして儚くなった。




三の皇子・満穂宮(みつほのみや)は無事に育ったが、幼い頃から病弱で、心も不安定であり、日嗣の御子としては不適任である、というのが世間の一致した見解である。





帝の訪れも遠のいた中宮遼子は、現在、後宮の東隅にある綺華殿(きかでん)に居を移し、まるで出家したかのようにひっそりとした隠居生活を送っていた。