*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

気がついたときには、雪から出ているのは顎から上だけになっていた。





かろうじて息はできるものの、身体は全く動かすことができない。





まるで水銀の中にでも入ったかのように、四方八方から雪の圧迫を受けて、指先さえも動かすことはかなわなかった。






(………なんということだ。


微動だにできないーーー万事休す、というやつか)






あまりにも予想外の事態に、沙霧はもはや呆気にとられていた。





為す術もなく、雪から顔だけを出して空を仰ぐ。







ごうごうと吹きすさぶ風の向こう。



雪曇りの空の色は、先ほどよりもさらに深くなり、青鈍色(あおにびいろ)に沈んでいた。





その暗い色合いが、まるで自分の未来を暗示しているかのように感じ、沙霧はぞっとした。






(………しかし、自力ではもはやどうにもなりそうにない。


誰か、助けを呼ばなくては)






人影を求めて、ぐるりと視線を巡らせる。




しかし、夕刻の近づいた雪山を歩いている人などいるわけもない。