*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

足の赴くままに後宮内をさまよい歩いていた朝日宮は、ふと足を止める。




数多い兄のなかでも最も慕っていた五の皇子、沙霧宮が暮らしていた栄燿殿の前を通りかかったからである。




温厚で心優しい沙霧宮は、帝の第四の妻、栄燿殿の女御の生んだ皇子だった。




栄燿殿の女御・康子の君は、朝日宮の祖父・左大臣兼時の、年の離れた同母妹である。



つまり朝日宮にとって、沙霧宮は母・明子の従弟ということになる。





そのような縁もあって、この後宮の中で、沙霧宮と朝日宮は幼い頃から共に遊ぶことが多かったのである。





栄燿殿と綾景殿は隣り合っていることもあり、頻繁に行き来をしたものだった。






(………懐かしいな。


この頃はお兄さまもお忙しくしていらっしゃったから、ゆっくりお話する機会もめっきり減ってしまったけれど………)






沙霧宮の優しい声音を思い出し、朝日宮は知らず溜め息を洩らした。