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綾景殿(りょうけいでん)を出た朝日宮は、壺庭を眺めながら廂縁(ひさしえん)を歩いた。
ひっそりと静まり返った中に、さざめくような女たちの声が洩れ聞こえてくる。
ここは、帝が日常生活を送る飛涼殿(ひりょうでん)の北、後宮である。
帝に仕える女たちは、皆この後宮に部屋を与えられていた。
帝の第七の妻である明子は、時の権勢を独占する荻原氏の首長・太政大臣兼頼(かねより)の長男、左大臣兼時(かねとき)の娘である。
由緒正しく勢力も大きい後ろ盾のある女御(にょうご)、明子に与えられたのは、飛涼殿のほど近く位置する綾景殿であった。
朝日宮は、今上帝(きんじょうてい)の末子、第十の皇子である。
今年で十になるが、元服の儀をまだ終えていないため、女たちに混じって、母の住む綾景殿で暮らしていた。



