*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

(………上さまのご愛情を一身に受けておられた栄燿殿(えいようでん)の女御さま。


あの御方が身罷られてから、五の宮さまのお立場はどんどん苦しいものになられた。


五の宮さまは、ご自分のお立場をわきまえなさって、ああする他になかったのでしょう。



この子にとっては辛いことかも知れないけれど、このままお隠れになることのほうが、五の宮さまの御ためにはいいに違いないわ………)







明子は目立たないように小さく吐息を洩らし、朝日宮を見つめる。






「朝日、今宵は上さまが催される宴でしょう。


そんな暗い顔をしていてはいけませんよ。



気分を換えに、外の空気を吸っていらっしゃいな」





「あぁ、そうでしたね。


では、少し、庭を歩いて参ります」






素直に頷いた朝日宮は、母に向かってぺこりと頭を下げて立ち上がり、御簾の間から出ていった。