「いやぁ、疾風の人柄の為せる業だな」






白縫山の盗人たちの状況が分かってくると、沙霧は嬉しそうに言った。




幼い頃から慕っていた兄貴分の疾風が、並み居る屈強な男たちから『お頭』と敬われているのを見て、我がことのように誇らしかったのである。






盗人たちにてきぱきと指図する疾風を眺めながら独り言のように呟いた沙霧の言葉を耳にした氷見は、こちらも誇らしげに頷く。







「あぁ、そうさ。


実際、疾風はすごいよ。


生活に困って盗みを働くような、言うなれば、しようもないならず者たちをここまでまとめ上げてるんだからな。


まぁ、かく言う俺も、ならず者の一員なんだが」







氷見は一瞬だけ自嘲的な笑みを浮かべたが、すぐにあっけらかんとした表情に戻った。






「でもさ、疾風は………同じ盗人でも、訳が違う。



一般の民が汗水たらして稼いだ金を盗むようなことは、絶対にしない。


生活に苦しむ庶民の気持ちを、ちゃんと分かってるからな。



だから、むしろ、人々を苦しめている貴族や、高利貸しや、成金の商人たちから盗むんだよ。


そして、金に困ってる都の民に分け与えたりもしている。



………そんな姿を見て、俺たちは、疾風について行こうって決めたんだ。


疾風の言うことなら、間違いないってな」