*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

白縫山には、総勢三十人にものぼる盗人が暮らしていた。






今上帝は穏やかな人柄で、その治世は、特に悪いというわけではない。




しかし、温厚ゆえに臣下たちが力を持ち、増長してきたため、私腹を肥やす貴族たちも大勢いた。




地方では、国司たちが破格の税や貢ぎ物を民衆に強要したため、人々は新天地を求めて華月京ーーー都へと集まってくることとなる。





しかし、都でも食糧が充分確保できるわけではなく、人手を求める仕事も多くはなかった。




そのため、都で職にあぶれた男たちは、最後の手段として、人から物を盗んで生計を立てるしかなくなる。





白縫山に巣食っている者たちも、ほとんどはそのように止むに止まれぬ事情から盗人になった者だった。





初めはそれぞれが山の好きな所に住みついていたのだが、古株であった疾風が、世話役のように男たちの面倒を見るようになった。





そのうちに、盗人たちは疾風のもとに集うようになり、いつの間にか疾風を『お頭』と呼び、自分たちのことを『白縫党』などと呼ぶ者も出てきていた。