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そうして沙霧は、飛び込むようにして白縫山の盗賊たちの仲間になった。
帝の皇子である沙霧が、なぜこんな山奥までやって来たのか。
いくら最愛の母を亡くしたとはいえ、それも五年も前のこと。
母という拠りどころを亡くして、確かに内裏での居心地は悪くなっただろうが。
しかしそれでも、皇子であることに変わりはなかったはずだ。
あまり会いに来ることはないとはいえ、寵姫が産んだ皇子・沙霧を、帝はことのほか重んじていた。
それなのに、なぜ、沙霧は逃げ出すように宮中を出てきたのか。
何か、そうしなければならないきっかけとなるような出来事が起こったのか。
疾風はやはり釈然としない思いを抱いてはいたが。
もはや都から遠く離れてしまった今となっては、宮中の噂を知る術もない。
沙霧本人が語ろうとしない以上、そのあたりの込み入った事情は、疾風には全く分からなかった。



