*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「………そうだったのか。


お前にそんな過去があったとはなあ……。



お前はいちおう貴族の子ということになるじゃないか」






氷見はしみじみとした面持ちで疾風を眺める。






「…………そんな良いもんじゃないさ」






氷見の視線を受け止めながら、疾風は自嘲するように笑う。






「あの方………沙霧宮のような、紛れもない貴族の血筋に比べれば、俺の家柄なんて、庶民に毛が生えたようなもんだ。



それに今は、母親も亡くして生活に往生して、盗賊に成り下がってるわけだしな。



恥じることのない人生を送ろう、と約束したが。


俺は自分の今の有様を思うと、可愛がってくれた康子の君にも、兄と慕ってくれていた沙霧宮にも、なんだか顔向けできないような気がするよ」






「…………ふぅん、そういうものなのか」






貴族の階級の格差などよく分からない氷見は、曖昧に頷くだけだった。