*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「………その、約束、ってのは?」






長い話を聞き終えた氷見は、疾風に小さく訊ねた。






「―――――たわいもない、子どもの約束さ。




『今は別れるしかない。


それは辛いことだが、仕方がない。



それぞれの道で、幸せになろう。


そして大人になったら必ず、いつか再会しよう。



その時に、互いに恥じる必要のないよう、後悔のない人生を歩もう』




それだけだよ」






疾風は懐かしそうに目を細め、沙霧が眠っている洞窟に視線を投げた。






「………あの約束は、俺も、もちろん覚えていたが。



俺の母親は、やっぱり運のない人でなあ。


再婚してすぐに、新しい夫が死んでしまってな。



そのあとは没落の一途だよ。


気がついたら後ろ盾も何もなく、俺も官位など頂けるはずもない。



母親は、流行り病であっけなく死んじまった。



いちおう貴族の娘だってのに、最後まで金に苦労をして。


かわいそうな人だったよ………」






疾風は遠くに思いを馳せるように、雪曇りの空に目を向けた。