*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

一つ年上の疾風に、沙霧はよく懐いた。




また疾風も、いつもまとわりついてくる素直で従順な弟分が可愛くて仕方なく、二人は実の兄弟のように、毎日一緒に遊び回っていた。




そんな二人を、病弱な康子の君と、心優しい春風は、いつも笑顔で見守っていた。






しかし、沙霧が成長し、育て親である春風の手を必要としなくなった、ある日。





まだ若く美しかった春風の再婚が決まり、新しい夫のもとへ移ることになったのである。



もちろん、疾風もついて行くことになった。






病気がちな康子とあどけない沙霧を置いていかなければならないことに、春風はずいぶん躊躇ったのだが。




これからは、自分自身の人生を幸せに歩んでほしい、と康子に言われ、決意した。





疾風自身にとっても、別れは思わしいことではなかった。




康子にはよく懐いていたので、心配だったのだ。



しかし、康子の体調は以前に比べればずいぶん良くなっていたので、心残りには思いながらも、大好きな康子と別れることを疾風も承諾した。






それでも、可愛い弟分の沙霧と離れるのは、なおつらかった。




だが、二人は「男の約束」を交わし、涙ながらに別れの日を迎えたのだった。










ーーーーーそれが、今から十年前のことである。