*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

疾風が氷見に話して聞かせた内容をまとめると、以下のようなものである。







今上帝には数多くの妃が入内(じゅだい)しており、当然ながら皇子(みこ)や皇女(ひめみこ)も大勢いらっしゃる。





その中でも厚遇を受けているのは、都の貴族の中で最も権勢をふるう一族―――荻原氏の家々から出た女御(にょうご)や更衣(こうい)たちである。





特に、その荻原氏の中でも、さしあたって最有力と言われている家、兼頼(かねより)の一門から輿入れした康子(やすこ)は、たいそう優れた女性であった。




入内した時には、まだ裳着(もぎ)を済ませたばかりの、幼さの残る十四の少女であったが、その美しさと教養の深さはすぐに帝の目にとまった。





美貌だけではなく、仕草ひとつひとつまで優美で、気品が高い。




しかも控えめな気性を持ち合わせており、他の妃たちと争うこともなく、帝に対する態度もたいそう奥ゆかしい。






康子はたちまち帝から気に入られ、格別の寵愛を受けた。







先例のないほどの寵姫(ちょうき)となった康子は、間もなく御子を授かり、生まれたのは世に比類ないほど見目麗しい皇子であった。







………それが、今年で御年十七になる、今上帝の第五皇子―――沙霧宮(さぎりのみや)である。