*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

まぁ、本人も言っていたように、沙霧はどうやらこの白縫山にやってくるにあたっては、すべての身分を捨ててきたらしい。




それならば、氷見に過去を話しても、いちおう問題はないだろう。






疾風は意を決して氷見を正面から見た。










「…………あの方は……な。




ときの帝の、皇子(みこ)のお一人だよ」












「……………………な……っ」











予想を遥かに上回る答えが返ってきて、氷見は目を剥いた。









「…………皇子、だと?



なぜそんな奴が、こんな所に………いや、なぜお前に会いに来る?」








疾風は気まずそうに目を軽く伏せてから、溜め息を洩らして顔を上げた。







「俺は、あの方の乳母子(めのとご)だからさ」






「……………………な……っん、だってぇ!?」







にわかには信じがたい言葉に、氷見はひっくり返りそうになった。