*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語








雪の中の移動で疲れきった沙霧が、ぐったりと眠り込んでしまったので、疾風は洞窟から出た。




その洞窟は普段、疾風が住処としている所だったが、今日は沙霧を静かに寝かせてやろうと思う。






白縫党の盗人たちが住むのは、山の奥深い所に聳える、頂上が見えないほどに高い崖の麓だった。




真っ白な雪の間から覗く真っ黒な岩壁の側面に、いくつもの穴が開いており、それぞれに好きな大きさのものを見つけて住みついているのだ。






その洞窟を横目に見ながら、すっかり暗くなった中を小さな松明を持って進んでいると、近くで待っていたらしい氷見が出てきた。






「疾風! お客人と話はついたのか」




「あぁ………いちおうは」




「あいつ………いったいなんなんだ?」






氷見は興味津々といった表情で訊いてきた。





あまり吹聴するのもどうかと思い、疾風は「うーん」と唸って誤魔化す。





しかし氷見は構わずに続けた。






「な、お前、たしか『さぎりさま』とか『高貴な』とか言ってなかったか?


どういうことだよ」






「………うーん」






そこまではっきり聞かれてしまえば、誤魔化しようもない。




疾風は諦めたように溜め息をついた。