*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

しばらくすると、沙霧は沈んだ空気を振り払うように笑った。






「それにしても、疾風」




「は? いかがなされました、沙霧さま」






背筋を伸ばして姿勢を正した疾風を、沙霧は可笑しそうにくすりと笑って見つめる。






「その口調と呼びかたは、よしてくれ。



ーーーわたしは全ての身分も地位も捨てて、あそこを出て来たのだ。


そのように敬うような態度は、もう不要だよ。



………昔のように、幼い頃のように、ただの友人として、わたしと話してくれないか」






「……………」






疾風は困ったように眉を下げた。




突然そのようなことを言われても、なかなかすぐに改められるはずもない。





その心中を慮り、沙霧はさらに言い募る。






「…………なあ、疾風。


兄弟のように育ったお前にまで、そういう態度をとられると、わたしはなんだか寂しいよ。



わたしにとってはもう、お前しか、打ち解けて話せる相手はいないのだから」






切実な口調で言われると、疾風も頷かざるを得ない。





戸惑いながらも、咳払いをして口を開く。






「そう………だな。



昔のようにーーー沙霧」







それを聞いて、沙霧は嬉しそうに微笑んだ。







「…………ありがとう、疾風」