*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語








「………ふぅ。


人心地つく、とは、このことだな。



久々にあたたかいものを飲んだよ」








「………………」








分厚くあたたかい毛皮に包まれて、沸かしたての湯を出されて。




ほっこりとした表情で、沙霧はしみじみと呟いた。






そんなのほほんとした様子を、まだ衝撃から抜け出せない疾風はぼんやりと眺めている。






「…………どうした、疾風。


しばらく会わない間に、ずいぶんと無口になったんだな。



歳月は人を変えるというが、本当だなぁ」






「…………いえ、そういうわけでは。


貴方の突然の来訪に驚いたあまり、言葉が出ないのですよ………」






「なるほどな。


さっきのお前の顔は面白かったぞ。



鳩が豆鉄砲を食らったよう、というのはああいう顔を言うのだろうなぁ」






可笑しそうに思い出し笑いをする沙霧を、疾風は微かに呆れたように見つめた。






「…………相変わらずのことわざ好きぶりですね、沙霧さま」






「ことわざは先人たちの知恵の集積だからな。


あらゆる真実はことわざの中にある、とわたしは信じているのだ」






「はぁ…………」







沙霧の能天気ぶりに呑まれたように、疾風は小さく相槌を打った。