*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「…………さ、沙霧………さま」






裏返った声で名を呼ばれて、沙霧はくいっと眉を上げた。







「ん? どうした、疾風?」






「………ど、どう、って………」







疾風はごくりと唾を飲み込み、なんとか声を絞り出す。







「ど……どうして、このような所へ?



あなたのような高貴な御方が、しかも、たった一人で、供もなく………」







すると沙霧は、にっこりと微笑んだ。










「わたしはな。



家出をしてきたのだ!」

















「……………………………はぁっ!?」









疾風の素っ頓狂な声が雪山に響き渡り、どこかでぼとりと枝雪が落ちる音がした。