*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

口をあんぐりと開いたまま動きを止めた疾風のほうへ、沙霧は輝くような笑顔で歩み寄る。





雪に足をとられて何度も転びそうになりながら、なんとか疾風のもとに辿り着いた。






「疾風! 久しぶりだなぁ。



ここまで来るのに、ずいぶん苦労したぞ。


冬の山がこんなに大変だとは思いも寄らなかったが………。


まぁ、若い時の苦労は買ってでもせよ、と言うしな。



それにしても、なんとかお前に会えたから良かったよ。


西の白縫山に、疾風という名の若い盗賊がいるという噂を聞いて、きっとお前に違いないと信じて来たんだ」






「…………えっ、あ、あぁ………」






屈託なく話しかけてくる沙霧を、疾風は口をぱくぱくさせながら見つめる。






「しかし、本当に寒いなぁ、白縫山は。


暑さ寒さも彼岸までと言うが、ここではなかなか春が遠そうだ。



どこか、温かいところで休ませてもらえないかな?」






沙霧はにこにこと疾風の肩を叩く。





しかし疾風は、硬直したまま動けない。