*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「あっ、あそこ! あいつだよ!」





氷見が突然そう叫んだので、その指が差す方向へと疾風は視線を投げた。





着慣れない様子の蓑に身を包み、菅笠を目深に被った、ひょろりと細長い立ち姿。





笠の陰から覗く横顔の頬は、男にしては、目を疑うほど白かった。




いかにも、日光になど当たったことがない、というように。






(…………んんん? 誰だっけ?



あの立ち姿、なんとなく見覚えがあるようなーーーーー)







そう思いながら、疾風は自分を待つ人物のほうへと歩を進めた。






雪を踏みしめる音が耳に届いたのか、その男がぱっとこちらに顔を向けた。






その面差しを見た瞬間。






「ーーーーーあっ!!」






疾風は自分でも驚くほどの大声を上げてしまった。






そこに佇んでいたのは、こんなところにいるはずもない人物だった。






「ーーーーさっ、沙霧………さまぁ!?」







疾風の声を聞き、その人物ーーー沙霧はにっこりと相好を崩した。






「疾風!! やっと会えた!!」






相変わらずの、凛とした、澄んでよく通る声だった。