黒鶴はそれ以上、なにも言えなかった。




兼正ははっきりと沙霧の命を奪うことを命じたわけではなかった。



しかし、自らの望みのためには徹底して邪魔者を排除する冷徹さを持つ兼正は、二度と沙霧が彼らを脅かさない手段を取るだろう。






「………分かりました。

白縫山の盗賊たち、そして朝日宮さまには、我々は決して手出しをいたしません。

誓って………」






黒鶴の言葉に裏のないことを感じ、沙霧は安堵したように柔らかく微笑んだ。





「お前たちの誠意を信じるよ」






ただただ静かな声音に、黒鶴は全身の肌が粟立つような感慨を覚えた。






(これほどまでに清らかで美しい心根をお持ちの、聡明で穏やかな御方を、失うことになろうとはーーー)





自分たちのしていることがあまりにも残酷であることは、十分に分かっていた。



しかし、兼正の命令に逆らうことなど、許されない。




そのような行動に出れば、自分の血縁者たちがどんな目に遭うことになるか、黒鶴には分かりすぎていた。




たくさんの前例を見てきたからだ。