「………つらい思い出を、話してくれて、ありがとう」







沙霧は呟くように言い、泡雪の手をさらに強く握った。





泡雪は緩く微笑み、それから何かを思いついたように小さく首を傾げる。







「ーーーそういえば、お前は、なぜ白縫山に来たんだ?」






「え?」






「お前には、自分の家に、父親も弟もいたのだろう?

なぜ、その家を出て、このような山奥へやって来たのだ?」






「あぁ、うん………」







沙霧は頷き、静かに話しはじめた。







「さっきも言ったが、わたしの父上は、帝という位におられた。

そして、皇位というものは、父から子に引き継がれるものなんだ。


わたしは父の数多い皇子たちの中で、世継ぎとされる立場にあったんだが……。


ーーーある事情が、あってね。


それにわたしは、弟の朝日のほうが、皇位に相応しい人格の持ち主だと思っていた。


………それでわたしはね、宮中を飛び出してきたんだよ。

全ての煩わしいことから逃げるようにして、朝日に全てを押し付けて………。



ーーーひどい兄だろう?」







沙霧は自嘲的に笑った。