*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

すぐには呑み込めず、沙霧はしばし呆然とする。




その後に、胸を殴打されたような激しい衝撃が、唐突に訪れた。




ざぁっ、と血の気が引くのを感じた。








「…………こ、ろ、され、た………?」








唇から洩れた声は、自分でも可笑しくなるくらいに切れ切れで、今にも消え入りそうに掠れきっていた。




泡雪は、特に表情を変えることもなく、淡々と続ける。








「幼かったからぼんやりとしか覚えていないけど………その日のことは、忘れられない。



私がまだほんの子どもの、ある秋の終わりごろだった。


母親は、冬籠もりに向けて食べ物を集めるためだろう、山じゅうを歩き回っていた。


私は巣穴で待っているのが退屈で、そのあとをついて回っていた。



もう冬が近かったはずだけど、よく晴れた日で、暖かかったのを覚えている。


私はなんだか楽しくて、きれいな色の落ち葉をくわえたりしながら、母親の後をおいかけた」







黙って耳を傾ける沙霧の脳裏に、ひとつの光景が浮かんだ。




赤や黄、茶色に染まる、紅葉した樹々の間を、軽やかに駆け抜けていく、真っ白な狐の親子。