*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

沙霧はくすりと笑い、泡雪の手をふわりと握った。







「そんなことはないよ。



わたしは、君のことなら、何でも知りたい。


君の話すことなら、何だって、一言も逃さずに聞くよ。



だから、君が嫌でなければ、君のことをもっと話して欲しいんだ」






「…………ん。分かった」







泡雪は頷き、静かに語り出した。







「――――私が、微かだけど覚えているのは、母親だけなんだ。


父親は顔も知らない。



まぁ、妖狐の世界では、子を産み育てるのはふつう母親だけだから、変わったことではないが。


生まれて間もない、ほんの子どものころ、そばにいつも母親がいたことだけは、なんとなく覚えている。



後になって他の狐たちから聞かされたことだが、物心のつくかつかないかの頃まで、私はずっと母親と二人で暮らしていた」







泡雪の中では、母親の面影はあまりにもぼんやりとしていた。



その記憶も断片的で、一瞬一瞬を切り取ったような景色が、ほんのいくつか思い浮かぶに過ぎない。




母と暮らしたころの泡雪は、それほどに幼かったのだ。