*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「朝日はね、あんなところで生まれ育ったというのに、本当に素直な子なんだ。



いつも明るくて、真っ直ぐに人の目を見て、表情がくるくる変わって、好きなものは好きだと、素直に言うことができる。



………ああいう人間こそ、治天の君として相応しいと、わたしはいつも思っていた」







沙霧は懐かしげに目を細めつつ、独り言のように呟いた。







「ーーー彼に比べてわたしは、つくづく、そんな器ではなかった。



わたしはいつも、何かを言うとき、びくびくしていたよ。


自分の言葉が、相手にどのように捉えられるか、そればかり気にしていた。



曲がった解釈のされ方をして、相手に不快な思いをさせるのではないか。


自分の意図とは異なるかたちで広まって、思わぬ波及をしてしまうのではないか。


それがもとになって、予想もしなかったような混乱を招くのではないか。



………そんなことばかり考えて、思ったことをそのまま口に出したことなんて、ほとんどなかった。


ひとの顔色ばかり窺って、いらぬ心配ばかりして、萎縮しきっていたんだなぁ」