*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

泡雪は左手で軽く沙霧の胸を押し戻し、身体を離すと、右手を懐に差し入れた。





単衣の合わせ目から取り出されたものを見て、沙霧が息を呑む。







「…………それは」






泡雪の手が握りしめているのは、沙霧が作った黄楊櫛だった。







「――――山を下りる途中で、無くなっているのに気がついて。


慌てて引き返したけど、なかなか見つからなかった」






「そうだったのか………」






長時間雪風にさらされ、いつになく赤くなっている泡雪の手を、沙霧はぎゅっと握った。






「でも、こんな櫛ひとつ見つけるために、もしも君に何かあったら、本末転倒じゃないか。


今日みたいに雪のひどい日に探さなくても、雪が止んでからわたしと一緒にゆっくり探せばよかったんだよ」






「……………」






泡雪はゆっくりと瞬きをして、何も言わずに沙霧の顔を見つめ返した。