*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「俺が白縫山で暮らしはじめて一月ちかくも経ったころ、突然、緑をかきわけて、一人の人間が姿を現した」






「ほう?」






「ぼさぼさに乱れて絡んだ髪に、ぼろぼろにほつれ、破れた着物。


一瞬、土蜘蛛でも出たのかと思ったよ」






「土蜘蛛か、古事記に出てくるな」






「あぁ、まったく、そうとしか見えなかったんだ。


俺が呆然と眺めていると、そいつは、意外に高い声で、俺のことを薄情者だと罵った。



……………その声を聞いて、すぐに分かったよ」






疾風がにやりと笑う。





沙霧は首を傾げて、「なにが?」と訊ね返した。






「その土蜘蛛みたいな奴は、隣に住んでいた娘だったんだ」






「えっ」






沙霧は歩む足を止め、疾風を見やった。