*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「………私も、ひとつ持つ」







泡雪が無表情に言って手を差し出すので、玉梓はふふ、と笑って水甕を手渡した。






「ありがとう、泡雪。


よろしくね」






「………ん」






泡雪が小さく呟いて俯くさまは、何も知らない者が見ればぶっきらぼうに思われただろう。




しかし沙霧と玉梓には、それが、礼を言われた照れくささを隠しているだけなのだと分かっていた。








泡雪は受け取った水甕を両手で胸に抱え、ちらりと玉梓の腹部を見る。







「ふふ、お腹が気になる?」







玉梓はすぐに気づいて訊ねた。







「…………重そうだ」






「ええ、重いし、うまく屈めないし、大変よ」







そうか、と呟いて泡雪は玉梓の瞳をじっと覗き込む。







「困ることがあったら、言ってくれ」






「まぁ………」








泡雪の口から発せられた思いがけない気遣いの言葉に、玉梓は目を丸くした。