奥津宮は小さく舌打ちをした。






「………やはり主上は、そのおつもりでおられたのか。


見目と学才以外には大して優れたところのない、政に全く関心のないうつけ皇子を、春宮に?



主上は、何も分かっておられない!」







奥津宮は声を荒げて、牛車の柱を扇でしたたかに打った。





兼正が頭を下げ、叫ぶように口を開く。







「宮さま!!


ご安心なさいませ。



私が必ずや、貴方さまを春宮に、そして帝にして差し上げます。


私は今、そのためだけに命を永らえているのです!!



私の持ち得る全ての力と知略を持って、貴方さまに相応しい地位を手に入れてみせますゆえ、もうしばらく、もうしばらくお待ち下さいませ!!」







奥津宮は苛立ちをなんとか抑え、口許を歪めた。







「お願いいたしますよ、お祖父さま。


私の積年の願いを叶えてくださるのは、貴方だけなのですから………」