「泡雪………がんばれよ。



わたしはずっとここにいて、見守ってやるからな………」






敷き詰めた藁に埋もれるようにして浅い呼吸を繰り返す泡雪の鼻先や頭を、沙霧は何度も撫でてやる。






(ーーー見守るしかないというのは、なんと歯痒いことか………)






沙霧は泡雪を見つめながら、心は遠い昔へと遡っていった。






ーーー病に長らく伏せっていた母のことを思い出していたのである。





病魔を退けるための加持祈祷(かじきとう)をする験者(げんざ)たち。



幾重にも重なり合う読経の声。




それらに囲まれ、褥(しとね)に横たわる母。




護摩(ごま)を焚く炎から立ち昇る煙のために、部屋中がぼんやりと仄白く曇っていた。





今思い出しても、まるで悪夢の中にいるかのようだった。






(ーーーあの時もわたしは、ただ隣に座り込んで、母上の御手を握って差し上げることしかできなかった………)