*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「ほぅ、沙霧、か。


そういえば村の若い衆がそんな話をしていたような気もするな」






刀傷が膿んでしまったと言って薬草を貰いに来た男が、見たこともないような上品で優美な男が都からやって来たのだ、と興奮気味に話していた。




聞いたときは、本当かい、ずいぶん胡散臭い話だ、と流していたのだが。






噂話の当人であるらしい沙霧を前にして、白髭はなるほどと内心で納得した。







(確かに、都でも滅多に見ないような高貴な顔をしている)






白髭は値踏みをするように沙霧をじろじろと眺めた。





その遠慮のない視線に少し戸惑いながらも、沙霧は気が逸って口を開く。






「あの、白髭さんは医術の心得がおありだと伺いまして。


お教えいただきたいことがあるんです」






「なんだい、病気かい、怪我かい」






「あ、怪我のことで」






「どこだい」






さっそく沙霧の身体を診ようとするので、慌てて身を引く。






「いえ、あの………怪我をしているわけではないんです」






「は?」






「えーと、もしも怪我をしてしまったらどうすればいいか、というのをご教授いただきたくて」






「…………変な奴だな」







白髭は眉根を寄せたが、「まぁ、言ってみろ」と快く受けてくれた。