*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「俺もそんなに詳しくはないが……。


金創(刃物などの金属による傷)の手当てはまず血を止めないといかんな。



矢傷ならば、まずは矢を抜いて、すぐに止血だ」






「止血というのは、どうすればいいのだろう」






「傷口にきれいな水か酒をかけてよく洗って、薬草なんかで厚く塗りこめて、布で覆うんだよ」






「薬草とは、どんな?」






沙霧が思いのほか詳しく聞きたがるので、黒駒は面食らったように目を剥く。





「俺もそこまでは分からん。


運よく矢傷は負ったことがないからな。


そんなに細かいことまで知りたいんなら、白髭(しらひげ)爺さんの所にでも行くといい」





「白髭爺さん?」





「まだ会ったことがないか。


ここから南に下った洞窟に住んでる爺さんだよ。


たぶん、白縫山で一番の古株じゃないかな。


ほとんど誰とも会わずに一人で暮らしてるんだが、医術の心得があるとかで、みんな怪我をすると爺さんのところに助けを求めるんだよ」






沙霧は頷くと、「ありがとう、行ってみるよ」と黒駒に手を挙げて、すぐに南へ爪先を向けた。





残された黒駒は不思議そうに瞬きをしながら、その後ろ姿を見送った。