*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

宙を飛びながら沙霧がにやにやしているのに気づき、泡雪はじろりと睨めつける。





「………気味の悪い笑い方をするな」





あまりにも嫌そうな顔で言うので、沙霧はくすりと笑みを洩らす。






「そういう憎まれ口も、きっと君なりの照れ隠しなんだよなぁ」




「……………」





泡雪は諦めたように視線を前に戻した。





「飛ぶというのは気持ちのいいものなのだなぁ」





しみじみと呟き、沙霧は目を細める。




目にも止まらぬ速さで飛ぶ二人に吹きつけてくる雪風はたいそう冷たかったが、冴えた空気は清らかだった。





遥か下方には雪原が広がっている。




雲間から陽が射し込むと、幾千、幾万もの硝子の粒が散りばめられたように、雪原は光の海になった。







「きれいだなぁ………」






雪原の中央に、沙霧が雪を掻き分けるようにして進んできた足跡が、一筋の小川の流れのように仄青く伸びている。





泡雪はそれを確かめながら、雪の塊を避けて器用に飛びつづけた。