*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

泡雪はふっ、と息を吐き、自分の右手を握っていた沙霧の手首を掴んだ。





絹糸のような真白の髪が、ふわりと舞い上がる。






どういうことか、と沙霧が顔を上げた時には、既に二人は宙に浮いていた。






「………………えっ」






驚きの声が沙霧の口を突いて出る。





しかしその声は、降りしきる雪の破片のなかに呑まれた。





泡雪は沙霧の身体の重みを腕ひとつで支えている。





しなやかで華奢な細腕のどこにそんな力が、と目を疑いたくなるような光景だった。






「…………あっ、泡雪?」





「じっとしていろ」





「…………はい」






見下ろすと、足はすっかり地面から離れている。





二人の身体はそのまま、すぅっと高く昇っていく。






枯れ枝に雪をたわわに積もらせた樹々よりも高く昇りつめると、今度は前に、なめらかに滑るように進み始めた。





雪の粒を孕んだ風が、びゅうびゅうと吹きつけてくる。





泡雪の髪が舞う。





容赦なく頬や瞼にぶつかってくる雪の欠片に、沙霧は思わず目を細めた。