*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「礼なら、もうもらった」






素っ気ない口調で告げてくるので、沙霧は首を傾げる。






「もう、もらった?


いや、わたしは君になにもあげていない」






「……………」






澄んだ瞳が、冴え冴えと沙霧を見つめ返してくる。






「くれた」





「え………?」





「お前は、私に、名を、くれた」






琥珀の瞳にも、白皙の相貌にも、表情らしいものはなかった。




しかし、その声には、穏やかな感情の起伏が感じられた。






(………もしかして。


泡雪は、喜んでいるのか?)






沙霧は唇を少し開いたまま、考える。