*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

「あぁ、ありがとう、狐さん」





雪の上に座り込んだ沙霧はほっとしたように笑い、思わず狐の頭を撫でようと手を伸ばした。





すると狐はぴくりと身体を震わせ、ぱっと飛びすさった。





少し離れたところから、狐は琥珀の瞳でじっと沙霧を見据えてくる。





透けるように白く、細く、そして長い睫毛にびっしりと覆われた、深遠な瞳だった。





その瞳の表情を見つめ、沙霧は口を開いた。






「…………君は」






狐の耳がぴくりと動く。






「君は…………泡雪、だろう?」






狐はもちろん答えない。





しかし沙霧には確信があった。






「君は泡雪だ、そうだろう?


…………また、わたしを助けてくれたのだな。


ありがとうーーー」






沙霧がにっこりと笑うと、狐は微かに尾を揺らした。





絹糸のように細く艶やかな毛に覆われた、美しい尾だった。