*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

沙霧の漆黒の瞳と、白狐の琥珀の瞳が、静かに見つめ合う。






時が止まったような静寂が流れた。






「…………あ」






沙霧の口から言葉にならぬ声が洩れた瞬間、狐がおもむろに動いた。





狐は音もなく、倒れ伏した沙霧の傍らに立つ。




そして、口を開いた。






雪の中の椿のような、鮮やかに紅い舌がちらりと覗く。





沙霧がそれに目を奪われていると、白狐の口が沙霧の襟元を噛んだ。




そして、ぐい、と引っ張る。







雪穴から引き出そうとしてくれているのだと解り、沙霧は自由のきく腕で自分の身体を浮かせた。






その瞬間に狐は前脚できつく踏ん張り、全身に力を込めて沙霧の身体を強く引っ張る。






沙霧は無事に雪穴から脱け出すことができた。