*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語

そのとき。





唯一、感覚の残っていた耳が、ある音をとらえた。






きゅ、きゅ、と雪を踏みしめる音。







(…………誰か、いるのか?)







沙霧は、閉じかけていた瞼をなんとか持ち上げた。






ごうごうと風が鳴り、辺りは吹雪で霞んでいる。





沙霧は目を細めた。




全てが仄白く曇った視界に、ひときわ白の濃いものが映る。







(ーーーーーなんだ?)







頼りない目を凝らす。





濃白の塊は、徐々に近づいてくるようだ。





その形は、人影のようだった。




沙霧は震える唇を微かに動かし、声を出そうと試みる。






「…………ぅ」







掠れた声は、相手に届きそうにもなかった。




乾ききった咽喉をごくりと鳴らし、湿らせようとするが、うまくいかない。




それでも、もう一度、声を絞り出す。







「…………あ、たす………け…………」