「でもね、ママ、」



続けようとすると、沙代さんが口を挟んできた。



「奥さま、そろそろお時間じゃないですか? 昨夜、今日は早く行くと言ってらっしゃいませんでした?」

「いけない! そうそう! もう出なきゃ!」



ママは急いで新聞を閉じ、残ったコーヒーを一気に飲みほした。 



「とにかく、叶太くんと行きなさいね! 大丈夫、行き先はどこでも、喜んでついてくるから!」



ついてくるから……って。

ママったら。



わたしが何も言えない内に、ママは勢いよく立ち上がる。



「じゃあ、いってきます」



ドアに向かう前、思い出したように、ママはわたしのところに来て、わたしの頭をギュッと抱きしめた。

それから、すごい勢いで、ダイニングを飛びだしていった。



「いってらっしゃい」



と、わたしが言った声は、ママに届いたかしら?