「おはよう、ママ」



ダイニングに行くと、ママが新聞から目を上げ、驚いたように、わたしを見た。



「おはよう。珍しいわね」



休みの日、わたしは平日の疲れから、寝て過ごすことが多い。

特に、5月以降はそんな感じだった。

ママにも、すっかり心配をかけてしまった。



「お嬢さま、お食事はどうされますか?」



お手伝いの沙代さんが、にこにこ笑顔で、キッチンから顔を出す。



「スープがいいな」

「じゃあ、具だくさんのスープとパン、フルーツを用意しましょうね」

「少しにしてね」

「はいはい。大丈夫ですよ。食べられないほど、つけたりしませんからね」



沙代さんは、嬉しそうに笑う。

二週間前まで、毎日、ろくに食事がとれていなかったわたしに、一番最初に気づいて、一番長く心配してくれたのは、たぶん、沙代さん。

謝ったら、何も言わずに、抱きしめてくれた。

わたしが生まれる前から家にいる、家族と同じくらい大切な人。

言えないけど、もう1人のお手伝いさんとは、ぜんぜん違う存在。