カナはわたしの手を取り、それから、頬に手を当てた。
「もうそろそろ、動けそうだな?」
「うん」
「行きたいんだろ? ……電車で」
「うん」
「じゃ、特急券買って来るから、少し待ってて」
「……特急券?」
「だよな。やっぱり知らなかったよな」
カナが笑った。
「ハルが下りたのが、特急が止まる駅で良かったよ」
何のこと?
首を傾げると、カナが笑って、また、わたしをギュッと抱きしめた。
……カナ。
だから、恥ずかしいってば。
自分の顔が赤くなるのを感じた。
それで、ようやく、本格的に貧血も乗り物酔いも治まったのが分かった。
「少しお金払ったら、指定席が取れるんだ。
止まる駅も少ないし、座席もゆったりしていて乗り心地も良いし速いし。
これならハルでも大丈夫だろ?」
「そうなんだ?」
わたしが目を丸くすると、カナが優しく微笑んだ。
「ちょっと待ってて。すぐ買って来るから」
と、行きかけたのに、カナは、何か忘れ物を思い出したみたいに、くるっと回れ右をして、駆け戻って来た。
「どうしたの?」
「あのね、ハル」
「うん」
「オレがいない間に、男の人に話しかけられちゃ、ダメだからね」
……え?
「ここ」
と、カナが、さっきまで自分が座っていた席を指さす。
「誰も座らせたら、ダメだよ」
カナが来るまで、親切な男の人が座っていた場所。
それから、カナは、しょっていたリュックを、無造作に、わたしの隣に置いて、
ポカンとしているわたしの頭をくしゃくしゃっとなでると、
今度こそ、駅の階段に向かって駆けだした。