汀は紅い髪を風に踊らせながら、家々の間を走り始めた。





その姿を、人々はきょとんとした顔で眺めている。





「………お母ちゃん、あれ、なあに?」



「しっ!! そんなにじろじろ見ちゃだめだよ!! かわいそうな人なんだから!!」



「なんでかわいそうなの?」



「あんなに若いのに、気が狂っちゃったなんて、かわいそうじゃないか」



「ああ、狂っちゃったんだ。だからあんな変な鬘をかぶってるんだね」





そんな会話が交わされていることなど知る由もなく、汀は必死に駆け抜ける。






人々の注目が充分集まったと判断すると、離れた物陰から見ていた藤波に、手で合図を送った。