市を出てしばらく行くと、人影もまばらになってきた。





「よし、このへんにしましょうか」




汀は足を止め、藤波のほうを振り返った。




藤波は不安そうな面持ちで、汀を見つめ返す。





「………本当に、うまくいくと思ってるわけ?」





疑うように言われるが、汀はうきうきとした様子で頭巾を外した。




中から、真っ赤な鬘がこぼれ出す。





黒髪を赤い染料で染めただけの硬そうな鬘は、色合いも毛質も、灯のしなやかな髪とは程遠かったが。





(蘇芳丸の髪を見たことがある人なんて、どうせいないだろうから、大丈夫ね)





汀はひとり頷くと、男物の着物の襟をきちっと合わせた。





「さ、行くわよ!!」





藤波は、大きな溜め息を吐き出した。