汀があまりにも大げさに喜ぶので、卯花は笑ってしまう。





「当たり前じゃないの。


汀さんもうちの家族の一員なんだから」






「まぁ、そんなことを言ってくれるなんて………本当に嬉しい!」






汀は心から嬉しかった。




貴族の姫として育った汀にとって、家族という言葉は、あまり馴染みのないものだった。




貴族の血縁関係者に対する考え方は、庶民のものとは異なっている。





町の一画ほどもある広大な敷地の中に、いくつもの建物が建っており、それぞれの建物に一人の主人がいる形で居住する。




庶民の感覚で言えば、違う家に住んでいるようなものだ。





実際、汀は血の繋がった祖父母と住んでいたときも、父の邸宅に引き取られたあとも、彼らとは顔も合わせない日がほとんどだった。





唯一、母だけは同じ建物に住み、身近に暮らしていたが、食事も別々で、共に出かけることなどもなかった。





貴族女性は、基本的に自分の部屋から動くことはないのだ。





汀がしていたように、立ち上がって建物の中を歩き回る姿を人に見られることは、ひどくはしたないこととされていた。